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  • 平尾功二

サハリン訪問2018・②ドリンスク市裁判所、交通検察庁、公証人事務所


サハリン訪問のメイン行事は、弁護士会・裁判所・検察庁の訪問になります。サハリン州弁護士会は1年前、弁護士会館を取得しました。この中には会長室、弁護士会の執行部の会議、懲戒に関する審査など業務が行われています。また写真のように遠隔地のオハなどで執務している弁護士とは、スカイプに

より、やり取りします。その後、ドリンスク市というユジノサハリンスクから30キロほど離れた郊外の第一審裁判所を見学します。裁判所では所長以下、裁判所職員の方全てで迎えていただき、法廷、審議室(裁判官が判決を考える小部屋、ロシア人弁護士も通常見られない。)、地下の勾留場、記録保管庫などを見せていただき、行政事件の傍聴をしました。当裁判所で最も古い記録には、戦前、樺太にあった王子製紙が製造した帳簿が使われていました。

午後からは、サハリン州の交通検察庁を訪問しました。このサハリン交通検察庁は、公式HPをみるとハバロフスクにある極東交通検察庁の支部というような位置付けとなっているようです。副所長の検察官に対応していただき、交通検察の業務について教えていただきました。写真は、検察官室です。

ロシアと日本の民事訴訟において、大きく異なる点の一つが民事事件における検察官の関与です。日本においては、法律上、成年後見申立や死後認知などについて公益の代表者として検察官が当事者的な立場で民事事件の当事者的地位に立つことが定められています。ただ実務的には極めて例外でそのような事件はほとんどありません。

 しかし、ロシアにおいては検察官が当然のように参加します。その参加の態様としては、①健康上の理由により自ら訴訟提起できない者の訴訟や不特定人の利益を確保するための訴訟の提起については当事者的な立場(原告のような立場)で提起する場合、②職務上の地位確認請求事件など連邦法の定める一定の事件について意見を述べるために参加するという態様があります。

 この検察官の民事事件への関与については、ペテルブルグで連邦民訴法を研究している時から大変興味がありました。

 検察官は当事者ではないとされているので、訴訟法上、訴訟上の和解をすることが認められておりません。そこで、「和解できたらいいのになぁと思うことはあるか?」と聞くと、「よくありますね。特にこちらの請求が認められなさそうな時など」とのことでした。

 検察官の述べた意見が通らないことはあるかとの問いについては、時々あるとのことなので、大多数の事件については検察官が述べた意見と大きく異ならない判決が出るようです。ペテルブルグで見学した労働事件も、検察官の意見通りの判決が出ていました。交通検察は、鉄道、船舶、航空会社など交通に関する会社を管轄することになるので、それらの会社の労働事件で検察官関与事件は交通検察庁が担当することになります。

 ちなみに、通常の刑事事件を行う検察庁への人事異動はあるとのことでした。

 検察官の民事事件への関与は検察庁にとってかなりの負担になっているようで、ある検察幹部の意見としては民事事件については切り離しても良いのではないかとの意見を持っている人もいるとのことです。執務は大体9時から午後8時ころまでのようです。

 この交通検察庁の隣には、交通捜査部という別の機関がありました。ここは、もともと交通検察と同じ組織だったようですが、分離されたようです。捜査官に取調の対象が黙秘権を行使して話をしないということはあるか?と聞くと、それはあるが様々な客観的な証拠もつきあわせるという模範的な解答をいただきました。

横の写真は、ロシアの公証人役場です。

ロシアでは、連邦公証人基本法により、訴訟提起前の証拠保全は公証人が行うことになっています。どういう感じで証拠保全があるのか興味があったので質問すると、「証拠保全は稀。ほとんどない。」という残念なお答えが…。ただ、公証人役場は大盛況で、いきなり外人である我々がどやどやと押しかけたため、お客さんは不審げな様子でした。ロシアでは公証人業務というのは日本よりも極めて多いようで、訴訟提起の委任状についても公証人の公証が必要となり、同行してくれたロシア人弁護士も重要なクライアントであるとのことでした。業務を誤ると損害賠償請求などもされるので本人確認にはかなり注意を払うようです。

札幌では公証人は9人しかいないよ、というと大いに驚いていましたが、日本では本人確認について印鑑証明制度があり、それにより違いが生じていると思われます。

 今回の訪問は、ペテルブルグでの研究で訴訟・法制度についての理解がありましたので、具体的に理解を深めることができました。

 11日にはモスクワ大学法学部企業法講座のクズマ准教授を札幌・小樽にアテンドするなど、今月はロシア語強化月間になりました。


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