• 弁護士 小笠原洋介

農業と法③ ~農業経営の法人化,農地所有適格法人について~


1 今回は,農業経営と法人についてお話させて頂きます。

これまで個人経営で農業を行ってきたという方の中にも,農業を法人経営

に移行することを検討されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

まず,農業経営を法人化すると,どのようなメリット,デメリットがある

のかについて考えてみたいと思います。

(1) 農業経営を法人化すると,「家計と経営の分離」すなわち,個人的な

生活に関する「家計」と農業事業に関する「経営」との分離を徹底する

ことが求められます。

決算書の作成など会計事務は複雑化し,会計事務作業の負担は増えて

しまうと思われます。

しかしながら,このような会計管理をきっちりと行えば,金融機関や

取引先等に対する信用力の向上が期待でき,借入の円滑化や取引の拡大

に繋がっていく可能性があります。

(2) また,農業経営を拡大していくためには,優秀な人材の確保が必要不

可欠といえます。

法人化により,社会保険等の加入義務が生じますが,労働環境が整

備されることにより,優秀な人材が集まりやすくなるというメリット

があります。

(3) 農業の承継においても,個人経営で農業を行っている場合,農地の所

有者が亡くなると,相続が発生し複数相続人による農地等の分散の問

題が生じることもあります。

法人であれば,農地等は法人に帰属しますので,代表者が亡くなっ

ても農地等が分散するということはありませんし,相続人以外のものを

代表としていくことも可能です。

(4) 税制面についても,収入規模等にもよりますが,法人税の適用による

メリットが生じたり,役員報酬の給与所得化による節税,欠損金の9

年間繰越控除(青色申告法人に限る,個人は3年)など,法人化によ

るメリットが出る場合があります。

2 農地所有適格法人

  では,実際に農業経営を法人化するとして,一般の法人と農地を所有して

農業経営を行う法人とでは,違いがあるのでしょうか。 

  この点,これまで個人で農業経営を行っていた方が,法人を設立し耕作目

的で法人として農地を所有するためには,その法人が「農地所有適格法

人」であると認められることが必要となります。

  「農地所有適格法人」の要件とは,以下の要件を全て満たすことが必要

となります。

  なお,かかる要件を法人設立時にチェックされるわけではなく,農地所

有のための農地法3条の許可等の申請をする際に,農業委員会にて確認さ

れることになります。   

(1) 法人形態要件

    農地所有適格法人となる法人は,株式会社,合名会社,合同会社,合

資会社,農事組合法人のいずれかであることが必要となります。

    多いのは株式会社ですが,株式会社の場合,株式譲渡制限のある会社

に限られています。

(2) 事業要件

    また,当該法人の主たる事業が,農業又は農業に関連する事業(法人

の農業と関連する農作物の加工販売等)であること(農業と関連事業が

売上の過半を占めること)が必要となります。

(3) 構成員議決権要件

    そして,株式会社であれば,次に掲げる者に該当する株主の有する議

決権の合計が総株主の議決権の過半を,持分会社であれば,次に掲げ

る者に該当する社員の数が社員の総数の過半を占めていることが必要

となります。

    ① その法人に農地の所有権又は使用収益権の移転をした個人等

    ② その法人に農地を農地利用集積円滑化団体又は農地中間管理機

構を通じ使用貸借による権利又は賃貸借を設定した個人

    ③ その法人に農作業の委託を行っている者

    ④ その法人の行う農業に常時従事する者

    ⑤ その法人に農地を現物出資した農地中間管理機構

    ⑥ 地方公共団体,農業協同組合,農業協同組合連合会

(4) 役員要件

    さらに,以下の要件を満たす必要があります。

    ① 農地所有適格法人の構成員である役員(理事,取締役)の過半

が,農業(販売・加工等を含む)の常時従事者(原則年間150

日以上)であること

    ② ①に該当する役員又は重要な使用人(農場長等)のうち一人以

上が年間60日以上,その法人の行う農作業に従事すること

3 少々長くなってしまいましたので,実際の法人設立の手続については,ま

た別の機会に改めてご説明させて頂ければと思います。

  お急ぎで法人設立手続などにつき,ご相談等がある方は,直接当事務所ま

でご相談下さい。


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