ロシア語の題名はあまり惹かれそうにないドラマですが、恐怖の権力者ヨシフ・スターリンの次男、ワシーリー・スターリンの生涯がとてもうまく描かれています。日本人にとってはスターリンという人物はおそろしい人というイメージしかありませんが、ロシア人にとっても同じかもしれません。しかし、この次男ワシーリー・スターリンは悲劇の主人公としてロシアの人は好意的なイメージをもっているのかもしれません。幼い頃からスターリンの子供として育てられ、空軍パイロットになります。絶対的権力者の子供という立場を十分に堪能しつつ、爽やかな性格の人物として描かれています。エピソードとして、訓練生(階級は中尉)の身でありながら、夜に女性とディナーを楽しみ、ダンスをしている際に、太尉とぶつかってしまいます。「ごめん」と謝るも妻の前でメンツをつぶされた大尉は激怒し、「おまえ訓練生なのに、なんでこんな時間に兵舎にいないんだ?」と絡みつき喧嘩になります。その場を逃れようとするも、近くに座っていた少佐が足をかけ、捕まえられてしまいます。憲兵大尉がやってきて「貴様の身分証を見せろ!」と重々しく命じます。「ワシーリー・スターリン・ヨシフォビッチ?これはどういうことだ」と二度見すると、「ヨシフォビッチってかいてんだろう。(ロシアの父性・ヨシフの子という意味)」、先の大尉と少佐の顔はみるみる青ざめ、体は硬直していきます。しかし、騒動を聞きつけた軍の高官が到着すると大尉と少佐に小声で「逃げろ、逃げろ」といってその場から逃してあげるあたりがワシーリーの爽やかさを醸し出します。最終的には若くして空軍中将にまで上り詰め意外と周りにも人望があったようですが、女癖が悪く、また酒癖もわるかったため家庭は崩壊していきます。スターリンの死後、逮捕され、スターリンという名前を奪われて別名をつけられ8年間の懲役刑を言い渡されます。出所後、名前も階級も生活の保障も戻されたのですが、生活は荒れ、批判を繰り返すようになり、最後には再び別名を名乗らされてカザン共和国の外国人専用地区に送られそこで最後を迎えます。ワシーリーの幸福に満ちた前半生と荒んでいく後半生をゲラ・メスヒという俳優が好演しています。英語字幕がありますので是非。