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  • 弁護士 小笠原洋介

農業と法④ ~農地の賃貸借について~

更新日:2022年10月16日


農業と法①では,農地の所有権を取得する方法について,ご紹介致しましたが,農業を新たに始めるにあたって,すぐに農地を購入して所有するというのは,いささかハードルが高いと感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

 そこで,今回は,農地の賃貸借について,ご説明致します。

(1) 賃貸借契約の締結(農地法第3条の許可)について

通常の土地の場合とは異なり,農地の場合は,賃借する場合も,原則として,農地法第3条 の許可が必要となり,許可を受けずになされた契約は無効となります。

許可を希望する人は,その農地の所在する市町村の農業委員会に申請書を提出して,許可をもらうことになります。

 ただし,農地経営基盤強化促進法に基づく権利設定の場合には,農地法第3条の許可は必要ありません。農地経営基盤強化促進法に基づく権利設定については,最後にまとめてご説明致します。

(2) 存続期間について

 農地の賃貸借の存続期間は,50年以内とされています(農地法第19条)が,次のとお り,原則として法定更新されます。

(3) 法定更新について

 農地については,賃借人の耕作権を保護する必要性が高いことから,農地法第3条の許可を受けて農地の賃貸借を行った場合は,契約上の存続期限が到来しても,期間満了の1年前から6か月前までの間に都道府県知事の許可を得て更新をしない旨の通知をしないときは,賃貸借は解約されず,従前と同一の条件で賃貸借をしたものとみなされることになっています (農地法の法定更新,農地法第17条)。

(4) 解約等の制限について

 ア また,農地の賃貸借契約を存続期間内に解除,解約する場合も,原則として,都道府県知事 (指定都市の区域内にあっては,指定都市の長)の許可が必要となります。

 この許可がされるのは,次のような場合に限定されています。

  • 賃借人が信義に反した行為をした場合

  • 農地等を転用することが相当な場合

  • 賃貸人の自作を相当とする場合

  • 賃借人が,農業委員会から農地中間管理権の取得に関する協議の勧告を受けた場合

  • 賃借人である農地所有適格法人が,農地所有適格法人でなくなった場合

  • その他正当な事由がある場合

 イ 例外的に,賃貸人と賃借人の合意による解約の場合や,解除条件に基づく賃貸借の解除が、 あらかじめ農業委員会に届け出て行われる場合には,都道府県知事等の許可なく,解約・解除が可能です。 

(5) 賃借権の第三者への主張(対抗力)について

 民法上賃借権を,第三者に対抗するには登記が必要とされていますが,農地の賃借権については,引渡しにより,対抗力が付与されます(農地法第16条)。

「対抗力が付与される」というのは,専門用語で分かりにくいですが,賃貸人以外の第三者 に対しても,自分が賃借人であることを主張できるということです。

したがって,賃貸借契約を締結し,農地の引渡しを受ければ,賃借権の登記をしなくて も,第三者に当該農地の賃借権を主張することができます。

(6) 農業経営基盤強化促進法に基づく権利設定について

 農業経営基盤強化促進法は,規模拡大を希望する意欲ある農家が農地を集約するのを総合的に支援することなどを目的として制定された法律です。

 同法に基づき市町村が,農業委員会の決定を経て農用地利用集積計画を定め,その計画に基づき利用権の設定等を受ける場合には,農地法第3条の許可は不要です。

 同法に基づく権利設定できる農地は,すべての農地ではなく,農業振興地域内の農用地に限られています。

 同法に基づき農用地利用集積計画による権利設定を受けた場合には,前記の農地法の法定更新の規定が適用されず,賃貸借の期間が満了すれば賃貸人は賃貸していた農地を自動的に返 還してもらえます。

また,農地の賃貸人と賃借人が引き続き賃貸借を希望する場合は,市町村が再度,農用地 利用集積計画を作成・公告することにより再設定することもできます。


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